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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(あ)1529号 判決 1964年6月18日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人海野普吉、同竹下甫の上告趣意第一点について。

所論中判例違反をいう点は、所論引用の判例は、昭和二四年法律第二八六号による改正前の物品税法三条にいう「製造場ヨリ移出スル時ノ物品ノ価格」の解釈につき、物品税の課税標準価格は、通常の取引形態および取引事情における価格、従って適正な市場価格でなければならない旨を判示しているのであるが、原判決は、「所論の伊木博及び大島祥三郎はいずれも消費者の立場において本件オルガンを購入したものであることは認められるが、被告人会社としては右両名と直接に契約をしてこれを移出したものではなく、伊木博の場合は被告人久保田義雄の知人高塚真次の依頼により、また大島祥三郎の場合は被告人会社の同業者坂田某の依頼により、それぞれこれを販売移出したものであったため、被告人会社の最終小売価格は四万円のところを、卸売価格相当の二万四千円で移出したものであり、右の二万四千円の移出価格は、原判決の挙示する全証拠によって明らかな昭和三十三年八月より昭和三十五年一月までの間の被告人会社の卸、小売業者に対する同一規格のオルガンの移出価格が二万円乃至二万六千円である事実及び被告人会社代表者兼被告人久保田義雄が検察官に対する昭和三十六年六月二十三日付供述調書において七十五鍵のオルガンの移出価格は二万四千円が相当であってそれ以下の分は寧ろ値引して販売したものであるという趣旨の供述をしていることに対しても、特異の移出価格であるとは認めることができない。それ故、原判決が、所論のオルガン二台につき、特別に小売業者のマージン相当額を控除することなく、各二万四千円の移出価格を基準として課税価格の算出をしたことは正当である。」と判示しているのであって、右原判示は論旨引用の前記判例と趣旨を同じくするものであり、これに相反する判断をしたものとは認められない。それ故、判例違反の論旨は採るを得ない。

その余の論旨は単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(原審の確定した事実関係の下においては、所論オルガン二台につき、物品税の課税標準価格を、各二万四千円の移出価格を基準として算出したことは正当であり、その間所論のような理由のくいちがいは認められない。)。

同第二点について。

所論は、本件に適用される物品税法三条一項の規定する「製造場ヨリ移出スル時ノ物品ノ価格」には、所論運賃等を含むものでないにかかわらず、本件に適用される物品税法施行規則一一条ノ六(昭和三五年政令第二二五号により一一条ノ七となる)三項所定の手続をしないからといって前記運賃等にまで課税したことは、法律に基づかず、命令によって課税したものであって、憲法八四条に違反すると主張する。しかし前記物品税法三条一項の「製造場ヨリ移出スル時ノ物品ノ価格」とは、通常の取引形態および取引事情における価格、従って適正な市場価格または取引価格でなければならないことは当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和二六年(れ)第二三三四号、同三一年五月一〇日第一小法廷判決、刑集一〇巻五号六四九頁)。そして同法同条二項は、「前項ノ価格ハ当該物品ニ課セラルベキ物品税ニ相当スル金額ヲ含マザルモノトス」と定め、同法同条三項は、「前項ニ定ムルモノノ外第一項ノ価格……ニ関シ必要ナル事項ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」と定めており、前記物品税法施行規則一一条ノ六は、右物品税法三条三項の委任に基づく命令と解すべきところ、右施行規則一一条ノ六の一項は、「第二種ノ物品ヲ製造場ヨリ移出スル場合ニ於テ其ノ運送賃……ヲ当該物品ノ対価ト区分シテ取引スルトキハ当該運送賃ニ相当スル金額ハ当該物品ノ課税価格ニ算入セズ」と規定しており、運送賃を当該物品の対価と区分して取引される場合であるから、右運送賃に相当する金額を当該物品の課税価格に算入しないこととした右施行規則の規定は、前記物品税法三条一項の法意に副うものというべきである。しかし、たとえ運送賃を当該物品の対価と区分して取引しない場合であっても、当該物品に係る運送賃の額として明らかに計算し得る金額については、区分して取引される場合との均衡上課税の公平を期する立前から、右施行規則一一条ノ六の二項、三項は、運送賃の額の計算に関する明細書を所轄税務署に提出した場合に限って同条一項におけると同様に、運送賃を当該物品の課税価格に算入しないこととしたのである。そして、この場合右二項の規定は、三項による運送賃の額の計算に関する明細書が提出されたときに限り適用されることとなっているのは、運送賃が当該物品の対価と区分して取引されていない場合においては、その運送賃の額として明らかに計算し得る金額か否かを、右二項の適用を受くべき製造者が所轄税務署に提出する三項所定の明細書によってこれを判定することとしたのであって、妥当な規定というべく、右二項、三項の規定もまた前記一項の規定と相まって本件に適用される物品税法三条一項の法意に副うものであり、右三項が、同法三条三項の委任の範囲を逸脱したものとも認められない。しからば、原判決は、所論のように法律に基づかず、命令によってした課税を是認したものではなく、本件課税は法律に基づきなされたものというべきであるから、所論違憲の主張は前提を欠くものであって、採るを得ない。

同第三点について。

所論は、本件に適用される物品税法一条一項が、物品税の課税範囲を命令に委任したことは、国民生活に重大な影響のある課税上の具体的範囲を命令に委任したものであるから、租税法律主義を定めた憲法三〇条、八四条に違反すると主張する。しかし、前記物品税法は、一条において相当具体的に課税物件たる各種物品を列挙し、二条には税率を、三条には課税標準の基本的事項を、四条には納税義務者を、八条には、課税標準の申告、決定に関する事項を、一〇条には納期を規定しており、その他物品税の課税上、基本的な重要事項は物品税法中に規定されているのである。所論物品税法施行規則一条は、前記物品税法一条一項の委任に基づき同条項で既に列挙している物品を、更に限定してその範囲を明確にしたものである。それ故、物品税法が国民生活に重大な影響のあるものであることは所論のとおりであるが、所論のように物品税法一条一項が、物品税の課税上国民生活に重要な影響ある事項を法律をもって規定せず命令に委任しているものであるとの所論は首肯し得ない。されば、所論違憲の主張は前提を欠くものというほかはなく、採るを得ない。

同第四点について。

所論は量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤朔郎 裁判官 長部謹吾)

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